「キャン･シャック酒場」（横溝正史） | ラバン船長のブックセイリング

ミステリではなくコント、いや駄洒落…。

「キャン･シャック酒場」（横溝正史）
（「横溝正史ミステリ
　　短篇コレクション①」）柏書房

「キャン･シャック酒場」（横溝正史）
（「恐ろしき四月馬鹿」）角川文庫

喫茶の女給が好きだったのは、
沖野の方だった。
失恋の事実に
打ちひしがれた｢私｣は
いらだちを隠せない。
ところがそんな｢私｣の態度に
お構いなしで、沖野は
｢面白い酒場がある｣といって
｢私｣をどこまでも誘い続ける。
その酒場は…。

横溝正史といえば、
おどろおどろしいミステリで有名です。
しかし初期の横溝は
決してそうではありません。
本作品などは後期の横溝作品には
絶対に見られない特色のあるものです。

【主要登場人物】
キャン･シャック酒場
…｢ワンダフルな｣酒場。
｢私｣
…失恋して不機嫌。イニシャルはY
　おそらくは｢横溝｣？
沖野藻一郎
…｢私｣の友人。無邪気な性格。
　｢私｣をキャン･シャック酒場へ誘う。
お静
…キャン･シャック酒場の女給。

本作品の味わいどころ①
｢私｣をからかう沖野の無邪気さ
喫茶の女給をめぐって沖野は上機嫌、
｢私｣は不機嫌。
その｢私｣をなだめようとして
沖野は新しい酒場へと
案内するのですが、そこでも沖野は
かわいい女給を独り占め。
しかしそれはわざとやっているのです。
｢私｣を怒らせようとからかう様は、
まったく厭味がなく、
無邪気さが前面に出ています。
この沖野の人柄から
まず面白さを感じます。

本作品の味わいどころ②
からかわれた｢私｣の癇癪
それに正直に反応してしまう｢私｣も
ユニークです。
激しやすいけれども醒めやすいのです。
癇癪持ちでありながら
後腐れがないのです。
だから沖野にちょっかいを
出されてしまうのでしょう。
この｢私｣の性格も愉しめます。

本作品の味わいどころ③
なんとミステリではなかった
さて、
いつ殺人事件が起きるのかと思えば、
起きません。
苛立った｢私｣が
二合瓶、灰皿、硝子戸を
破壊しただけなのです。
殺人事件ならぬ、ただの器物破損事件。
酒場の壁にはこんな一言が。
「癇癪持ちのお客さまがた。
　腹が立ったらなにかお毀しなさい。
　破壊本能を抑えてるなんて
　ばかげたことです。
　ただしみなさま、損料は
　実費でちょうだいいたします。」
なんとミステリではなく
コントだったのです。
いや、コントというよりも駄洒落…。